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長崎簡易裁判所 昭和39年(ろ)178号 判決 1965年2月03日

被告人 西部港湾建設株式会社

右代表者 代表取締役 柴田喜代治

主文

被告会社を罰金一万円に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、港湾しゆんせつ作業を営むものであるところ、法定の除外事由がないのに、被告会社使用人木村昭次において、同会社の業務に関し、昭和三九年七月一七日から同月二九日までの間、長崎港において、同会社所有の第一五大宝丸(一九・九三トン)を作業のため就航させるに際して、法定の資格を有しない三浦七三治を同船船長として乗組ませ、もつて法定の資格を有する海技従事者を乗組ませなかつたものである。

(証拠の標目)(略)

(被告会社代表者の主張について)

被告会社代表者は「被告会社代表者より前示木村昭次に対し、判示第一五大宝丸は使用しないで繋船しておくよう命じていたのに、右木村が勝手に使用したものであるから、被告会社には本件刑責はない」旨主張するのでこれについて判断する。船舶職員法第三三条本文によると「法人の……使用人その他の従業者が、その法人……の業務に関して、第三〇条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人……に対しても同条の刑を科する」と規定し、但書をもつて「使用人らの当該違反行為を防止するため当該業務に関し、相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人……については、この限りでない」として法人の刑責を問わないこととしている。そこで被告会社において、判示木村昭次の違反行為を防止するため相当の注意及び監督が尽されたか否やについて考えて見るに、証人木村昭次の供述及び同人の検察官に対する供述調書の記載を綜合すると、被告会社はその業務である港湾しゆんせつ作業に使用するため、昭和三九年六月頃、当時漁船であつた第一五大宝丸を購入し、これを引船に改装し機関の修理などをして、同年七月一〇日頃被告会社代表者より、長崎市稲佐川しゆんせつ工事の現場監督並びに同工事現場で使用していたしゆんせつ船興双丸の船長をしていた右木村昭次に対し「第一五大宝丸はまだ乗組員も決つていないし、当時建造中であつたしゆんせつ船有明丸の引船にする予定であつたので、同船ができるまで、旭町の現場(右しゆんせつ工事現場)に繋船しておいてくれ」とその保管を命じた、しかし木村昭次は、興双丸の僚船である引船第二五平和丸は船底が深く意の如く工事に使用できないため、未だ引船として登録替えのしてない第一五大宝丸が船底が残いので、工事竣成を急ぐあまり、法定の無資格者三浦七三治を船長として乗組ませ、判示期間興双丸の僚船として就航させたとの事実が認められる。そうすると被告会社の使用人木村昭次の以上の行為は、被告会社の業務に関して、第一五大宝丸を就航させ、これに法定の資格を有する海技従事者でない三浦七三治を船長として乗組ませたとの船舶職員法第一八条第一項に違反するものであり、被告会社においてこれを防止するためには、右第一五大宝丸を繋船するについて、その繋留繩に施錠をして随時これを検査して監視し又木村昭次をしてその保管状況を日々報告せしめるなどして、未だ登録替えの終つていない船舶を引船として使用しないように監督し、「小型船舶の船籍及び積量の測度に関する政令」第一条(第一三条において両罰規定がある)に違反しないように注意し、もし右大宝丸を就航させている事実が判明したときは直ちにその乗組員の資格を調査し、無資格者を乗組ませないよう注意を怠らないようにすべきであつて、単に一度被告会社所在地及び代表者の住所である島原市より約七〇キロ離れた現場に、繋船しておけと命じ、仮りにその際使用してはいけないと言つたとしても、その後繋船状況を見廻つたと認められる資料のない本件においては、前記船舶職員法第三三条但書の要求する「相当の注意及び監督が尽されたもの」と認定することはできないばかりでなく、木村昭次の司法警察員に対する供述調書によると、同人はしゆんせつ船興双丸の運転日誌によつて、判示期間、第一五大宝丸を就航使用していることを報告していることが、認められるので、被告会社代表者においても、これを知り又は知り得べき状態にあつたものである、従つてもし知つていたとすれば木村昭次の判示行為を認容したものであり、知らなかつたとすれば、この点重大な過失があるものと認められるので、結局被告会社代表者の判示主張は、その証明がないことに帰し採用するに由ない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 吉松卯博)

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